1時間45分の大作を観て「いやぁ〜よかったな、感動した!」とホクホクしながら、この気持ちを共有したいとレビューを検索してびっくり。
「え、なんでこんな評価低いの?」
中でも多かったのがジブリのパクリという指摘。
筆者はジブリは全部観ているし、金ローでやっていれば必ず観るし、好きな作品は何度も繰り返し観てきたほど並より上くらいのジブリ好きですが、『紅き大魚の伝説』を観ている間「パクリだ!」と感じたシーンはありませんでした。
一体何がそんなに日本人からのレビューを下げているのか…気になったので深掘りします。
※ラストシーンのネタバレ注意です!
そもそもバイアスかかってない?
最初にネット上のレビューを読んでいて思ったのは、そもそも「中国のアニメ」というだけで⭐︎1つ下げる人がとても多いのではということです。これはすごく残念…。
筆者は旅行でも中国に行きたいし、ニュースで中国という単語がでてもアナウンサーの発言をすべて鵜呑みにしないくらいには中立な立場です。他の国に対してもそうですが。この作品は中国語を勉強するために字幕で観ました。
低評価によく見られるパクリという指摘ですが、「千と千尋とポニョとハウルを混ぜたみたい」と大雑把に語られているだけで、具体的にこのシーンとこのシーンは全く一緒といった指摘はほとんどありませんでした。
強いて上げるとすれば、木が成長してネズミたちが乗っかるところ、鼠使いの婆が人形に乗ってくるくる水柱の周りを登っていくところ、ここは筆者も「これトトロみたい」と感じました。
しかし、例えば子どもがディズニーやジブリを観て育って、こういうシーンを描こうとして思い浮かべたらこうなるんじゃないのかな…という印象です。
誰にでも想像できるアイデアに著作権は発生しないように、国が違ってもオタクが考える理想なんて大抵一緒なんですよ。こんなシーン作りたいな、も。むしろ日本アニメが世界中のクリエイターに影響を与えているんだなぁと誇っていい部分だと思います。
冒頭のちょっと不思議な世界の表現は”中国らしさ”が溢れていて、「あ、ここ日本の作品なら麦わら帽子になるんだろうな」とか「赤を多用してるけど画面キレイだな」なんて感想を持ちました。場面の切り替えは日本と感覚が違うと感じるのも育った国の違いによる性質だろうなと面白かったです。
わかりにくいと言われるストーリーについて
事前知識を何も知らないで観ましたが、特に理解できないということはなかったです。
むしろ神話を噛み砕いて表現していて、ストーリーの中で自然な流れで理解させることができていたと思います。
- 自然の摂理を司る者がいて、その者たちが住む世界が海底の先にある。
- 成年式を迎えると、自然の摂理を観察するために七日間、人間界に送られる。
- 人間の魂、良いことをした人間は魚に、悪いことをした人間はネズミになる。
キャラクターのデザインや暮らし、祭事、建物に至るまで世界観が作り込まれていて、かなり解像度が高い作品だなと思いました。
一点気になるところがあると言えば、鼠使いの婆が若返って人間界に行った後の人間界での影響でしょうか。悪人として何かしでかすレベルなのか、人間界にとって災害レベルなのか…その辺がわからないままですが、話の本筋ではないから描かれなかったんだろうなと思います。
この作品の良かったところ
最後にキャラクターの名前の”漢字”がわかった時、鳥肌が立ちました!中国の人も映画館で観ているとき字幕がないはずですから最後に漢字を知るはずです。予想はできるかもしれませんが。
チュンは椿、チウは秋、クンは鯤。鯤は古代中国の伝説に登場する、数千里の大きさという想像上のとても大きな魚です。
昔チュン(椿)と呼ばれる巨木があった。その世の春は八千年続いた。秋(チウ)も同じく八千年。
最後のこの文章でチウが報われたんだってわかりました。ハッピーエンド最高です。
チウの恋は結ばれることはなかったけれど、愛は報われたのです。同じ治世をチュンの巨木と支え合って、驚くほど長い年月を過ごせたのですから…(と思いたい!)
リンポー (霊婆)が800年反省してても…と言っているので八千年が海底の世界に生きる人々にとってもどれだけ長いかわかります。
人間界に渡ったチュンとクンのラストも手をとって一緒に生きていく、あとは想像におまかせ…って感じで観る人に任せる感じが良かったです。少女漫画脳としてはあからさまなハッピーエンドを観たかった気持ちもありますが(笑)
ふと二回目を観たとき、チュンのその後が冒頭のナレーションとリンクしているとわかって「おぉ!」となりました。
日本では製作者が本当に作りたいものを作る、ということがだんだん難しくなってきています。それはお金がないから。商業的に売れるもの、大衆にウケる要素をふんだんに取り入れざるを得ない状況があると思います。(某コ○ンのように)
その点、この作品は中国の古文書・荘子の『大魚海棠』という神話を元に、作り手が作りたいものを自由に際限なく表現したのが伝わってきました。完成まで12年かかったそうです…!この監督・制作会社の作品をもっと観てみたい!と素直に思いました。(終)