漫画『月下の君』最終回の結末は?異色の源氏物語のあらすじと考察!

源氏物語をテーマにした漫画はたくさんありますが、

その中でも真っ先に思い浮かぶのが、嶋木あこ先生の『月下の君』です。

この作品は「源氏物語」をそのまま漫画にしたのではなく

光源氏の生まれ変わりという設定の主人公が、運命の恋を手に入れるまでを描いた学園ラブファンタジーになっています。

数ある源氏物語を題材にした漫画の中でも、まさに異色!

嶋木あこ先生の美麗なイラストで描かれた、かなりオリジナリティ溢れる少女漫画に仕上がっているんです。

今回は、『月下の君』の最終回までのネタバレと、主人公たちの心理描写を徹底的に考察してみました。

※最終回までのネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください

※かなり長いです。各エピソードの考察は筆者の主観になります

『月下の君』の1〜7巻のあらすじ

時は平安時代。

幼い光の君は、父の後妻である藤壺の女御に恋をしてしまう。

しかし、藤壺の女御は"父親の再婚相手"。

拒絶された光の君は、藤壺への叶わない想いを埋めるかのように、

数々の女性たちと浮名を流す。

光源氏は17歳の時、美しい少女に出会い、紫の君と名付け、藤壺の身代わりとして彼女を愛する。

紫の君を愛おしみながらも、藤壷の女御に叶わぬ想いを抱き続け、女性との愛を求め続ける光源氏。

紫の君を傷つけていると知りながらも、毎夜、戯れに女性たちのもとへ通うその呪縛が、千年後の現代で前世の因縁となって現れる。

時は変わって現代。

高校生・葉月(はづき)は、”女に触れそうになっただけで震える”という特異体質に困っていた。

そんなある日、転校生の女の子・舟(シュウ)に恋をする。

しかし、その日から葉月は体に異変が起きるようになり、度々千年前の光源氏の意識が葉月の体を乗っ取るようになった。

近づきたいのに触れられず、女遊びを誤解され、舟の心を傷つけてしまう葉月。

一方で千年前の光源氏も、紫の君と交わりながらも、彼女を深く傷つけていた。

他の女の元へいこうとする光源氏を「行かないで」と引き止める紫の君。

紫の君への愛を自覚した光源氏だが、まるで『決められた物語』に操られているかのように、その行動を変えることができない。

平安時代で月が陰った時、千年後の世界で、葉月と舟は想いを通わせ結ばれる。⇒解説1

しかし、それを許さないというかのように、葉月は後輩の女の子に監禁され、舟を守るために自分が世界一嫌いな男・光源氏なったふりをする。

葉月の行動に傷ついた舟だったが、不器用なやり方で自分を助けてくれたことを知り、葉月に自分の好意をぶつけ、2人は仲直りする。

千年前の世界では、光源氏が「千年後、共に生まれ変わろう」と紫の君に約束をしていた。

そんな夢を見た葉月は、自分の中に知らない短歌の記憶があったり、鏡に映る自分が光源氏の姿をしている幻覚をみる。

ある事故をきっかけに、ついに自分は『光源氏の生まれ変わり』だと自覚した葉月は、

紫の君との千年越しの約束を果たすため、"紫の君捜し"を始めるのだった。

舟を忘れて紫の君捜しを続ける葉月だったが、胸には現世の恋人だった舟への想いが溢れて止まらない。

「舟が紫の君だったら」と思いながら、諦めきれないでいた。

舟を狙う同級生と決闘することになった葉月。

千年前の約束か現世の恋か、板挟みになった葉月は、自分の舟への想いを自覚し、舟を選ぶ。

現世の想いが前世に勝った時、今まで見えていなかった舟が紫の君の生まれ変わりであることに気づくのだった。 ⇒解説2

葉月は、かつて光源氏としての自分が心から愛しんだ少女・紫の君が、現世の恋人・舟として甦っていることに気づき、嬉しい気持ちを隠せない。

前世の記憶を取り戻していない舟は、葉月が紫の君の話ばかりして、現実の自分を見てくれないことに、寂しさが募っていく。

そんな折、栄養失調で倒れた舟に、葉月は気付いてやれなかったことを悔やみ、一緒に暮らすことに。

一方、千年前では、光源氏が紫の君を都に残して須磨に落ち、紫の君に会えない孤独と寂寞の想いを募らせていた。

葉月の継母への意見の違いからぶつかり合う葉月と舟だったが、そんな中で、葉月は再び体が頻繁に乗っ取られていることを感じ始める。

最初は気づかなかった舟も葉月の友人も、次第に葉月の様子がおかしいことに気づくが、それが別人がなりすましているとは思わない。

光源氏の意識は度々葉月の体を乗っ取り、光源氏は須磨に流された寂しさから、現世の葉月になりすまそうとする。 ⇒解説3

しかし現世の知識のない光源氏は、舟を狙う同級生を気づかぬうちに唆し、舟を深く傷つけてしまう。

葉月に他に好きな人ができたと思い込んだ舟は、葉月の家をでていくことに。

舟を取り戻したい葉月(中身:光源氏)は、自分は葉月ではないことを告げるが信じえてもらえない。

葉月の異変に、次第に葉月ではないことに気付いた舟。

なぜ紫の君である舟が、自分を選んでくれないのかと憤る葉月(中身:光源氏)。

舟は葉月(中身:光源氏)に対して、「残された紫の君だって辛かったはず」と、思わぬ言葉が口をつく。

深い意識の中で、対峙する葉月と光源氏。

現世で光源氏と紫の君である舟が添い遂げることで、前世の因縁が解き放たれると言われた葉月は、その体を舟をために器として譲ってしまう

しかし、それならば舟もまた、自分の体を紫の君に明け渡すと光源氏に告げる。

舟が"光源氏"ではなく、"葉月"を求めていると知った光源氏は、葉月に体を返した。

このまま自分といれば、舟は前世の運命に囚われたまま傷つくことになると知った葉月は、舟に元に戻ったことを告げることを躊躇する。

だが、2人ならば乗り越えられるはずと決意するのだった。

ここから最終回へ!

最後は物語の最終局面を、主観も交えてご紹介します。

『月下の君』の結末は?

物語の最終局面は、千年前、光源氏が須磨で浮気をした時にできた子どもを、紫の君に育ててもらうという非情なエピソードが絡んできます。

その前世から逃れられないとすれば、葉月が舟を裏切り、結婚してしまうということ。

まるで運命とでも言うかのように、葉月には父親から転校&お見合いの話が!

『源氏物語』では、光源氏は最後まで紫の君を苦しめ続け、死ぬまで自分の元から離しませんでした。

千年前の記憶で「もう縛られるのは耐えられない」と泣きながら光源氏に訴える紫の君。

そんな前世の因果から逃れられないと覚悟した葉月は、せめて現世の恋人・舟だけでも前世の呪縛から逃れさせようと別れを告げます。

光源氏の魂は、舟を愛することで紫の君に出会い、千年前の約束を果たせると考えていましたが、葉月は舟を守るためにこそ、二度と合わないと決意するのです。

しかし、葉月を引き止めようと無茶をする舟に、2人の体は引き寄せられるように駅のホームで再会しました。

「忘れたくない、離れたくない」と思う葉月に、舟は「私たちは離れられないわ」と告げ、2人は前世を乗り越えるのです。

〜最終回〜

生まれ変わりである2人が成仏し、周囲の記憶から葉月と舟が消えてしまう。

そんな2人を見守ってきた葉月の友人の夢から始まります。

現実では、親子の縁を切ってでも舟と一緒にいることを選んだ葉月。

紫の君の魂は、葉月と舟に自分たちの分身として、自分たちとは違う物語を作ってほしいと告げます。

"光源氏の生まれ変わり"という記憶に縛られず、葉月は葉月として、舟は舟として、ハッピーエンドの物語を紡ごうとする葉月。

結局紫の君のことを覚えていない舟に、これまでの出来事は夢だったのではないか感じます。

「大昔にある約束したけれど何でしょう」と言う葉月に、前世を覚えていないはずの舟は「千年後、一緒に生まれ変わろう」と新たに約束をするのでした。⇒最終回の考察

『月下の君』各エピソードの考察

解説1 千年前の物語が変化した兆し

3巻で葉月と舟は、身も心も一度結ばれます。

これは千年前の物語が、少しずつ変わり始めた兆しでもあったんです。

千年前、光源氏は紫の君を置いて、他の女の元へ行こうとしていました。

紫の君を愛おしく思う自分を自覚しているのに、まるで物語の上を歩かされているかのように筋書きを変えられない

そんな道筋が、月光が陰り、光源氏の姿が隠されたことで変わっていくんです。

(当時は電灯もなく、真っ暗闇だったので、夜這いしてきた人の顔が見えなければ誰かわからない(笑))

『女の元へ通うのをやめ、紫の君だけを愛する』というのは、源氏物語』ではありえないこと

千年後の葉月たちが、まるで千年前の光源氏たちに影響を及ぼしているかのような描写がなされています。

解説2 なぜ葉月は舟=紫の君の生まれ変わりと気づけなかったのか?

初対面の時から、舟=紫の君という構図を読者は予想できていたのですが、葉月はずっと気づけませんでした。

葉月が光源氏の生まれ変わりと自覚したのは、舟を好きになったあとです。

"紫の君捜し"の時もなぜか勘で『舟は紫の君じゃない』と決めつける始末。

これは4巻の最後で、紫の君と舟、どちらをとるかの選択を迫られた際に、

葉月が自身の心で、現世の舟を選んだ=紫の君を自力で見つけだしたという結果になったからこそ解決できたのだと思います。

千年前に光源氏によってたくさん傷つけられてきた紫の君ですから、

そう簡単に、生まれ変わった!結ばれよう!とはならないわけですね。

ここからようやく葉月=光源氏、舟=紫の君の生まれ変わりとして物語が進んでいくわけです。

解説3 なぜここにきて、光源氏の意識が葉月を乗っ取ったのか

月が陰った時のエピソードから、千年前と現世がリンクしていると考えれば、千年前の世界で須磨に流された光源氏の状態が、現世の葉月に影響したと考えられます。

『現世の葉月の体にいれば、紫の君に似ている舟とずっと一緒にいられる』

そう考えた光源氏は、その孤独な思いの強さから葉月の体を乗っ取ることに成功したのではないでしょうか。

最終回の考察

舟は紫の君の生まれ変わりとされていますが、葉月のように前世の記憶が出てきたり、乗っ取られたりすることは終始ありませんでした。

この物語の主題は「源氏物語」の中でも、光源氏が紫の上を裏切り続ける物語

千年後に生まれ変わった2人は、そう簡単には幸せになれません。

けれどこの最終回で、最後の最後に紫の君の想いがでてくるのです。

定められた物語の中で、お互いの想いを告げることができずに悲劇に終わった光源氏と紫の君。

それが物語のせいなのか、物語がなければそもそも出会うことさえできなかったのか、前世の物語はもう変えることができないのです。

だからこそ自由な世界で生まれ変わった葉月と舟には、「源氏物語」に縛られず違う物語を作ってほしかったー

ここでようやく葉月と光源氏、舟と紫の君がたとえ生まれ変わりでも違う人間」となりました。

想いは受け継ぐけれど、物語は引き継がない、前世の因縁を断ち切れるという終わり方になったのだという意味だと考えています。

あとがき・総評

この作品、主人公・葉月と光源氏の幻が代わる代わるでてきて、さらに平安時代と現在の描写が絡み合って...とにかく複雑なんです!

1回さらっと読んだだけではわからなかった心理描写がたくさんありました。

それでも、色気ある光源氏と美しい絵柄に後押しされて、『源氏物語』の中でも"光源氏と紫の君の関係"にだけに焦点を当てているのがとても面白かったです。

色気たっぷりのお色気や継母のエピソードで、ストーリーが少し散らかってしまったのが残念な点でした。

数ある『源氏物語』を題材にした漫画の中でも、美しく色っぽさの溢れるイラストと表現はダントツで素晴らしい作品です。

毎回ドキドキしながら読んでいたので、 やっぱり嶋木先生の描く歴史ものは素晴らしいなぁと感じました。

同じような(?)作品で、こちらは僧侶の輪廻転生ものです。

「月下の君」の切なさとか恋愛要素とは違い、こちらはかなりぶっ飛んだラブコメディになっています(笑)

やはり着物や宮中の描写などが美しいので、歴史もの&ちょっと変わった作品が好きな方はぜひ読んでみてください!

最後までご覧いただき、ありがとうございました。