『耳をすませば』の制作裏話・原作との違いを徹底考察【少女漫画】

夢を追いかける若者の恋と青春を描いたジブリ映画「耳をすませば」。

いまから20年以上前の1995年に公開されました。

最近ではこの映画にでてくるイケメン・天沢聖司役の声優が14歳の頃の俳優・高橋一生さんということでも話題になっています。

そんなこの映画、原作は月刊誌『りぼん』で連載されていた少女漫画なんです。

映画と漫画の絵柄がちがうため、原作と知らずに読んだことのある読者もいるのではないでしょうか。

今回は原作漫画とジブリ映画のちがいを、漫画好きの視点からまとめてご紹介します。

※原作・映画のネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

『耳をすませば』が生まれたきっかけとは?

ジブリ映画「耳をすませば」は少女漫画誌『りぼん』で1989年8月号から4回に渡って連載されました。

映画が誕生するきっかけになったのは1989年の夏。

宮崎駿監督たちが信州の山小屋で新企画のための合宿をしていたところ、姪が読んでいた漫画に掲載されていたことがきっかけです。

そのとき宮崎駿監督は鈴木敏夫プロデューサーと「バランスの良い作品だな」「この物語の最後はどうなるか」と話し合ったことが、ジブリ映画『耳をすませば』が生まれるきっかけになったそうです。

原作漫画の方は当時の『りぼん』の風潮とは会わず、全4回で完結となりました。

原作も映画も、本の貸出カードを通して存在を意識するようになった少年少女が、

思春期のさまざまな葛藤にもまれながら、初恋の気持ちを育んでいく、

という大筋のエピソードは変わりません。

映画では、さらにその時代の風潮や思春期のリアルな葛藤が盛り込まれており、老若男女に受け入れられる作品へと変化しています。

ジブリと原作キャラの比較

月島 雫(つきしま しずく)

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(出典:「耳をすませば」公式)

原作では中1、映画では中3。読書好きで豊かな感受性を持つ、文字通り『本の虫』。

貸出カードに「天沢聖司」の名前を見つけてどんな人か想像を膨らませたり、偶然出会った猫のムーンを追いかけたり、ファンタジー大好きな夢見がちの女の子。

天沢聖司(あまさわ せいじ)

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(出典:「耳をすませば」公式)

原作では中1、映画では中3。自分に厳しい性格で夢への目標をしっかり持っている。

気障で嫌味ったらしい顔もある反面、好きな子に素直になれない子どもっぽい一面もある。

月島 汐(つきしま しほ)

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(出典:「耳をすませば」公式)

映画では大学1年生。しっかり者で行動力があり、夢見がちな雫に現実的な発言をしては喧嘩になっている。

原作では高校生で聖司の兄・航司と同級生。映画とは異なり、おっとりした可愛らしい雰囲気を持つ。

天沢航司(あまさわ こうじ)※原作のみ登場

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(出典:「耳をすませば」公式)

原作に登場する聖司のお兄さん。高校1年生。いつもニコニコした優しそうな面差しである。

写真を撮るのが趣味で、母校の先生から「変人」と称されるほどの変わり者。

アニメ映画と原作漫画のちがい

1.聖司のお兄さん、雫のお姉さんがちがう

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(出典:「耳をすませば」公式)

上記のキャラ絵を見ていただければわかる通り、原作と映画では主人公2人の兄・姉の人物像が大きく異なります。

原作は、月島姉妹・天沢兄弟の4人がメインキャラクターの爽やかな恋と青春を描いたドラマなんです。

聖司の兄・航司は雫が「天沢聖司」の正体に気づくための大きな伏線となっていますし、

原作の航司と雫の姉・汐は同級生で、ほのぼのとした交流の末、最終的に結ばれました。

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(出典:「耳をすませば」公式)

さらに原作で雫は「聖司が恋したのはお姉ちゃんではないか」と勘違いしてしまう描写があります。

まさに少女漫画の王道展開ですよね(笑)

そこが映画では一変。

姉・汐は、夢見がちな雫を叱責し、将来をきちんと考えるリアリストとして描かれました。

原作では様々なエピソードの根幹に"初恋"の要素がありましたが、

映画では雫と聖司を取り巻くキャラクターたちをリアルな存在にすることで、深みのある思春期の物語へと変えています。

航司と汐、この2人の変化がもっとも原作と映画の違うところだと思います。

2.聖司の目指している夢がちがう

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(出典:「耳をすませば」公式)

雫が恋する少年・聖司は、映画では『ヴァイオリン職人』を目指していますが、じつは原作では『画家』を目指しています。

『ヴァイオリン職人』はジブリ映画の独自設定です。

さらに、映画の聖司は将来のために留学するという進路を持っており、目標に向かってしっかり歩もうとしている印象がありました。

しかし原作では、聖司も雫と同類のファンタジーな世界観の小説が好きな、どちらかといえば空想を好む存在です。

その気持ちを「絵」で表現している聖司が、雫には『自分だけのステキな世界を持った男の子』に見えます。

「自分も何かしたいけれど、どうすればいいのかわからない」とモヤモヤする雫が惹かれる恋愛面でも大きな要因でもあるんです。

原作と映画、恋愛として惹かれていく理由が似ているようでやはりどこか違います。

この部分は原作を読めば読むほど、深く考えてしまう部分ですね。

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(出典:「耳をすませば」公式)

映画では、聖司をしっかりと進路に向けて歩む少年として描くことで、

進路に葛藤する雫との対比を浮き彫りにし、思春期に夢に挑む少年少女の姿を躍動的に表現していました。

原作のほんわかした夢のような青春に対して、

映画はリアルな思春期の挑戦と苦悩を描いているんです。

3.カントリーロードの曲は原作ではでてこない

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(出典:「耳をすませば」公式)

実は作中歌の「カントリーロード」もジブリの独自設定です。

雫が歌詞を考えたり、地球屋でおじいちゃん達と歌ったり。

聖司のヴァイオリン職人という夢とリンクして、映画に彩りを添えています。

大人がどこか照れくさくなってしまような歌のシーンも、コンクリートロードの替え歌も、原作のほんわかしたファンタジーに、生き生きとした現実味のある世界観を持たせてくれています。

この曲が、観た人の心に強く印象を残すのも映画ならではないでしょうか。

物語の中に音楽のチカラを自然と盛り込んだ手腕は、さすがジブリだなぁと感服しました。

ストーリーともぴったりで、4話しかない原作がここまで膨らんだのも、この曲の力も大きいのでは、という気がしています。

4.恋 vs 将来の結末の違い

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(出典:「耳をすませば」公式)

映画のラストでは、聖司は雫に将来結婚しようとプロポーズしたのち「雫、好きだ!」と抱きしめてエンドロールとなりました。

原作では、映画と同様に朝日を見に行った2人が「君が好きだ」「あなたが好き」とお互いの思いを伝えます。その後、聖司と雫、航司と汐のカップルで飛行船を観に行っておしまいです。

原作でも小説でも映画でも、2人の将来についてははっきりとは書かれていません。

雫と聖司が結婚したのか別れてしまったのかは、永遠の謎です。

ただ一つ違うのは、

原作は2人の思いが結ばれてハッピーエンド。

映画は将来一緒になろうと約束して、おれたちの未来はこれからだ!エンド。

ということ。

原作は最後までラブストーリーとして作品が仕上がっていることが、映画との最大の違いではないでしょうか。

あとがき

原作は『好きな人の好きな人はお姉ちゃん』という成分を含め、初恋の甘酸っぱさが詰まった優しい物語でしたが、

ジブリ映画では、聖司の暴走する思春期や若気の至りをマシマシで詰め込んだ傑作ですね。

大人が赤面して悶えてしまうのは、ここに理由があるのではないかと(笑)

原作と映画を比べると、

話の筋はほとんど一緒なのに、シーンの使い方や周囲のキャラの違いでここまで見え方が変わるものか!

とびっくりします。

アニメ映画を見たことがある人は、ぜひ原作も読んでみてください。

最後までご覧いただき、ありがとうございました!

↑本編は中学1年生の雫と聖司の物語。全1巻。

下記は中学3年生になった雫の続編が描かれています↓

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