漫画『薔薇王の葬列』は2013〜2022年にかけて連載され、全17巻で完結しました。
今回はこれまでのあらすじと、最後どうなったのかをざっくりとご紹介します。
はじめに
薔薇王の葬列の原作とは?
実はこの作品には原案があります。
それがシェイクスピアの『ヘンリー六世 第1〜3部』(King Henry the Sixth)と『リチャード三世の悲劇』(The Tragedy of King Richard the Third)です。
これらは『ヘンリー六世』の第1〜3部と『リチャード三世』をあわせて4部作となっていて、15世紀のイングランドで実際にあったごたごた(戦争や内乱)を描いた歴史劇です。
また、ランカスター家とヨーク家の30年に及ぶ権力闘争は"薔薇戦争"と呼ばれている歴史上の出来事です。
シェイクスピアを原作として描かれた『薔薇王の葬列』
ここではあらすじを理解するために、漫画では直接的に描かれていない描写も簡潔に説明しています。
原作はまるで映画やオペラを観るような美しい作品ですので、初見の方は漫画を読んでから閲覧することをお勧めします。
なお、当時の人たちは親子で名前を引き継ぐことが当たり前だったため、大変ややこしいことになっています。
※()で注釈を入れています。
薔薇王の葬列のあらすじ
第一部(1〜7巻)
中世イングランド。両性具有の身体で生まれたヨーク家の三男・リチャードは、幼い頃から母親から忌み嫌われていた。
しかし、父親であるヨーク公リチャード(以下、ヨーク公)はその名を与え、最愛の末後として深い愛情を与えて育つ。
自身の愛する光である父が王になることを願うリチャード。それに応えるように、ヨーク公は現王ヘンリー六世ならびに王妃マーガレット率いるランカスターの軍勢に玉座をかけて戦いを挑む。一時ランカスター勢に押されるなか、リチャードは不思議な羊飼いヘンリーと出会った。
争いを厭うヘンリー王はヨークとその息子に玉座を譲ると誓約したが、ヨーク公は玉座を目前にしてマーガレットの軍勢に無惨に殺されてしまう。
門前に掲げられた屈辱的な父の亡骸と対面したリチャードは、激しい絶望と怒りに駆られてランカスターを打ち倒す。戦いはヨークの勝利で終わり、ヨーク公の長男であるエドワードが新王となる。(2巻)
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数年後、エドワード王(リチャードの兄)は美しい未亡人・エリザベスに恋に落ち、家臣に内緒で秘密裏に結婚してしまう。
しかし彼女は夫を殺したヨークを憎み、復讐のために王妃の座を狙っていた。兄の結婚式のアリバイ作りに巻き込まれたリチャードは森の中で、素性の知らないヘンリーと再会を果たす。
国の安泰のためフランス国王の義妹とエドワード王の結婚話を進めていたヨーク公の腹心・ウォリックは王の勝手な行動に激怒。エリザベスの思惑通り、宮廷にはエドワード王に対する不信感が募り、ウォリックは次兄のジョージを担ぎ上げて謀反を起こす。
リチャードは“女”に扮してエドワード王(兄)を救い出すが、窮地に立たされたウォリックはかつての王妃マーガレットと手を組み、ウォリックの娘アンと、ヘンリー六世の息子のエドワード(ランカスター)を結婚させる。ヘンリーを復位させたウォリックは摂政となり、王に匹敵する権力を手に入れる。
エドワード四世の命によりジョージの説得に向かったリチャードは、ランカスター兵に襲われて逃げ込んだ森の家屋でヘンリーと幾夜を共に過ごす。羊飼い・ヘンリーを愛していると気づくリチャードだったが、愛に怯えるヘンリーを前にその想いをしまい込み、ただ再び逢うことを誓う。(6巻)
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ジョージを味方に取り戻したリチャードは、自身の”キングメイカー”を自称する部下・バッキンガムと共に、圧倒的な強さでウォリックとランカスターを討つ。
父の敵討ちのためヘンリー王の首を狙うリチャード。しかし戦場に潜んでいたヘンリー六世が自分が愛した羊飼いのヘンリーと同一人物だと気づいてしまった。
愛した男がヨークの敵である憎きヘンリー王だと知ったリチャード。玉座を取り戻した兄・エドワード四世は、母セシリーにリチャードの内通を仄めかされ、リチャードにヘンリーを殺すよう残酷な命を下す。
ロンドン塔に向かったリチャードは葛藤の中、初めて自身の身体の秘密を打ち明けてヘンリーに愛を告げるが、病状が悪化して錯乱するヘンリーはこれを激しく拒絶。リチャードはヘンリーに向けて刃を突き立てた。(7巻)
第二部(8〜17巻)
ヘンリー六世が死に、リチャードは戦の褒賞としてかつてエドワード(ランカスター)と結婚させれていたアンと結婚する。
リチャードの二人の兄達は魔女・ジェーンの蠱惑的な魅力に取り憑かれ、宮殿には淫蕩な雰囲気が漂っていた。兄弟の対立が深まる中王家の安寧のため、リチャードはバッキンガムと手を組んで殺し屋・ティレル(記憶をなくしたヘンリー)を使いジョージを殺害する。この頃、バッキンガムは執拗にリチャードの体の秘密を暴こうと躍起になっていた。
そんな折、スコットランド兵がイングランに侵攻し戦争が勃発。リチャードは戦の指揮を取り、敵国の王弟を懐柔することに成功する。ところがエドワード四世が逝去し、ヨークを憎む王妃エリザベスとリチャードたちとの間で権力闘争が勃発。
かつて愛した夫を殺したのがリチャードだと知ったエリザベスはリチャードを捕縛しようとするが、リチャードは自身の秘密を知ったバッキンガムと共にこれを退け、エリザベス派の人間を次々と粛清していく。ついにエリザベスは聖院に送られ、政治から遠ざけられることになった。(10巻)
リチャードを憎むエリザベスは、エドワード四世の側近だったヘイスティングスと接触して反撃の準備を進める。
そんな折、リチャードの母親セシリーからリチャードの秘密を聞いたエリザベスは、リチャードを陥れようと彼の身体について噂を触れ回る。ヘイスティングスの裏切りを確信したリチャードは次の王の戴冠式を決める議会で、その首を晒す。(11巻)
兄エドワード四世の子供がエドワード五世として玉座に就こうとしていた。玉座を狙うリチャードとバッキンガムは、残虐な子ども達の企みとエリザベスの謀を利用して妻となったアンを味方につけ、エリザベスがエドワード四世の正式な妻ではないことを主張し、エドワード五世ならびにその弟をロンドン塔へ幽閉する。
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政敵は消え去り、ついにリチャードはリチャード三世として玉座を手に入れた。(13巻)
ところが、ランカスター派の生き残りであるリッチモンドが道化に扮して暗躍。ようやく手に入れたリチャードと半身・バッキンガムの幸せは瞬く間に消え失せてしまう。
アンとリチャードの息子・エドワードが前王を廃嫡した理由と同じ不義の子であると噂を流され、バッキンガムはリチャードにエドワード(息子)を廃嫡するように迫るが、リチャードはそれを拒む。
さらにジェーンに妊娠の可能性を示唆されたリチャード。バッキンガムは喜色を浮かべるがリチャードはそれを一蹴。互いに描く未来の差に愕然としたバッキンガムは、ティレルにリチャードの殺害を命じる。
玉座を取るか、半身を取るか。
リチャードが苦悶している間に、いよいよバッキンガムとリッチモンド達による反乱が起こってしまう。リチャードは王としての対処を求められ、バッキンガム討伐の覚悟を決める。
かつて愛し合った森でリチャードはバッキンガムと剣を交える。バッキンガムを逃がそうとするリチャードだったが、バッキンガムは自身を取り除くことこそリチャードの為だとして自ら捕まる。処刑人に扮したリチャードは、その手で愛する半身を処刑する。
バッキンガムを失ったことに苦悩するリチャードに追い打ちをかけるように、妻・アンの病気が発覚する。ロンドン塔に幽閉されていた兄弟を使ってリチャードを追い詰めるリッチモンド。アンはエドワード(息子)のために、息子を廃嫡してほしいと願いでる。
リチャードはアンの願いを受け入れ、エドワード(息子)の偽の葬儀を行う。
しばらくしてアンがこの世を去り、リチャードの愛した者は誰もいなくなってしまった。
17巻 薔薇王の葬列の結末は?
リッチモンドは“正義の味方”の演劇でリチャードを貶め、民の心を掌握していく。
戦に出発するリチャードの前に姿を現した母セシリーは、リチャードが父ヨーク公の本当の子供ではないこと、母親が襲われてできた子どもだと明らかにする。リチャードは彼女自身も犠牲者だと告げると、愛してほしかった母親にようやく別れを告げる。
リッチモンドは聖院に閉じめこられていたエリザベスと結託し、次期王妃とされるベス(エドワード四世の娘)を無理やり自分と結婚させる。
正当な後継として大義名分を得たリッチモンドは、日和見な軍勢を抑えて戦場を掌握。
戦場で味方を失ったリチャードは自ら前衛にでて一騎当千の活躍をみせるが、討ち取ったリッチモンドの首は影武者だった。
敵に囲まれるリチャードの前に白馬に乗ったティレルが現れる。
ティレルはリチャードの顔が割れていないことを利用して偽りの情報を流し、その影武者となって戦場で命を落とす。最後にリチャードに愛していると告げて。こうしてリチャード三世は死亡した。
ケイツビーは瀕死のリチャードを戦場から逃す。リチャードは馬上でそっと目を閉じて、ひと時の夢をみるのだった。
END
リチャードの最後はどうなったのか?
シェイクスピアではリチャード三世はこれまで自身が死に追いやってきた者たちの亡霊に苛まれながら戦死します。
しかし『薔薇王の葬列』では、リチャードの生死は明確には描かれませんでした。そのまま死んでしまったかもしれないし、もしかしたら生きているかもしれません。消化不良を感じる方もいるかもしれませんが、筆者はとても美しい終わり方だと思いました。
それは生きていればハッピーエンドなのか、と問われればそうではないからです。
最後の戦場で図らずも初めて愛したヘンリー(ティレル)から愛を返され、それも失ったリチャードは本当にすべてを失ってしまいました。
もしリチャードが生きていたとしても、もはや自身が求めた愛も安らぎも二度と手にすることはなく、ただ従者ケイツビーのためだけに生きることになるのでしょう。だから生きていても死んでいてもリチャードの劇(人生)はここで終わってしまったのです。
史実ではリチャードが死んだことで長年の内戦に決着がつき、リッチモンド公はヨーク家のエリザベス(ベス)と結婚してヘンリー七世となり、テューダー朝がはじまります。あの意地悪な顔(作画すごい)が頭から離れなくて、これからヘンリー七世の絶対王政の全盛期が始まると思うと業腹ですがw
『薔薇王の葬列』としてのリチャードの最期はとても美しかったです。涙なしには読めない最高の物語でした。
おわりに
『薔薇王の葬列』をきっかけにシェイクスピアにハマり、イングランドの中世の歴史にハマり。。
シェイクスピアはリチャード三世を犬に吠えられるほどの醜い男としてますが、当時であれば悪魔だと言われてもおかしくない両性具有をストーリーに落とし込んだ手腕に脱帽です。2つの性の狭間で揺れる葛藤が物語の随所で感じられました。
また、時折現れるリチャードのみるジャンヌ・ダルクの幻影が、そのままリチャードの数奇な運命を表しているようでとても芸樹的でした。読むとすごくしんどい(褒め言葉)のですが、また何度でも読み返したい作品です。
ちなみに王妃マーガレット+αを描いた外伝があります↓
美麗な画集、オリジナルノベルもおすすめ。ノベルは原作を補うような幕間のストーリーですごく良かったです!
最後までご覧いただき、ありがとうございました。